猫の湯~きみと離れていなければ~
遇が乙姫をけなして呼ぶようなことはしたくはないけれど、倫が仁にするように、心の中で「シャーッ」と思いきり威嚇してみた。
それだけでかなり気が楽になる。
祥子は「気にしちゃダメ」と、わたしの気をそらそうとして午前中の授業のノートを写せるように机に広げてくれた。
「お前らいい加減にしろよ。鈴はそんなやつじゃないから」
突然、目の前の席の陽向が立ち上がった。
「陽向やめて。わたし全然気にしてないから、お願い座って」
陽向まで巻き込みたくないのに。
わたしは陽向の腕を引っ張って座らそうとするけど、まったく微動だにしない。
「じゃあどんなやつか教えてくださーい」
「こっちには証拠があるんですけどー」
美穂と久美子は陽向にも幼稚な挑発をはじめる。
「俺が証拠」
陽向はそう言うと、ポンとわたしの頭に手をおいて笑顔を見せた。
「俺は誰よりも鈴と一緒にいたんだから優しいやつだって知ってる。だから俺が証拠、な」
「……陽向」
陽向が分かってくれてるならそれだけでいい。
どんなに誤解されも疑われても、
陽向が信じてくれてるならそれだけでいい。
溢れそうになる涙を隠さずに、わたしはうんとうなずいた。