猫の湯~きみと離れていなければ~
「あー。ところでさ、あそこの神社覚えてる? 」
ようやく口を開いた陽向が、少し先の桜が満開に咲いている神社を指さした。
遠回りって、…もうここまで来てたんだ。
考えごとしていたから、周りの景色を全然見ていなかった。
その神社は猫ちゃんと、…流と出会った場所。
あの記憶がよみがえって足がすくんでしまう。
「どうした? 」
「ううん、なんでもない」
流は生きていてくれたんだから。
恐れることはなにもないんだから。
「引っ越しの前にさぁ、あそこで約束したこと覚えてる? 」
「約束って? 陽向とわたしが? 」
「あーその感じ。ぜってー忘れてるなー」
嘘だろという風にがっくりと肩を落とす陽向。
引っ越しのときは猫ちゃんのことで頭がいっぱいになっていたから。