猫の湯~きみと離れていなければ~

「それで風森さんさぁ」

「わたしのこと、鈴でいいよ」


わたしと違って、自分から話しかけてきた彼女は勇気のある人だなって尊敬してしまう。


「じゃ鈴! あたしは祥子って呼んでね。鈴は彼氏とかいるの? 」

「ううん。そんなのいないよ」

「それも一緒じゃん! でもさぁ、せっかくあの逢坂くんと同じクラスになれたのにさぁ」



不意に出たその名前に思わず体がビクッと驚き、心臓が破裂してしまうんじゃないかと思うほどに鼓動し始めた。


今、逢坂って言った?
それって陽向のことだよね。


どうして祥子が、陽向を知っているの?



「もう見てよあれ。さっそくガードがついちゃってて近寄れもしないの」


祥子が視線を送った先では、窓際で数人の生徒が話に盛り上がっていた。
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