猫の湯～きみと離れていなければ～

子供のとき、いつもママに髪を切ってもらっていた陽向は、ある日ちぐはぐな長さにされてしまった。


『すぐに整えるわよ』と言っていたママだったけれど途中で面倒くさくなったらしく、陽向の髪はママによって強制的に丸坊主にされた過去がある。


まぁあのときは、陽向がママに『へんだよ。これすっげーへん』ってしつこくバカにしたのも原因なんだけど。


ゲラゲラと笑うママの前で、顔面蒼白になっている陽向の写真は今でも家のアルバムに入っているし、うちで陽向の話が出るときは、必ずと言っていいほどその事件も一緒に話にあがってくる。


しかもその写真を撮ったのは藤子おばちゃん。


藤子おばちゃんも大笑いながらシャッターをきっていたことはわたしにも衝撃的で、忘れることができない思い出の１つだった。



「逢坂くん、それ、誰？ 」


言い放つような声に、わたしたちの笑い声はぴたっと止まった。