猫の湯~きみと離れていなければ~
だからどうして?
どうしてここで莉子の名前が出てくるの?
莉子とわたしは一目瞭然、比べる必要なんてないのに。
それに…、
陽向の口から莉子の名前を聞きたくは、ない。
「仲良くとか子供かっての。バッカみたい」
「なーんか逢坂くんにもガッカリー。あのねー? 友達は選んだ方がいいよー」
クラス中の視線を浴びているのもあり、陽向を味方に引き込めなかった美穂と久美子は陽向にも酷い言葉をかけはじめた。
いくらいざこざが苦手なわたしでも、陽向がこんな風に言われるのは許せない。
わたしが立ち上がろうとした瞬間、
「そんなこと言うなってー」
美穂と久美子に笑いかけながら、陽向は2人に見えないように背中越しにわたしの前に手をだして、わたしの動きを制止した。
…陽向、
絶対に陽向も心の中ではムカついている。
でも、わたしが言い返せば波風がどんどん大きくなっていく。
きっと祥子だって黙ってはいなくなる。
自分が盾になってこの場を納めようとしているの?
争う姿勢のない陽向に何も言い返せない美穂と久美子はばつが悪そうに目を合わせると、祥子とわたしを睨みつけて自分たちの席へと戻っていった。