猫の湯~きみと離れていなければ~
それにしてもこんなときにわざわざ話したいことってなんだろう。
もしかしてさっきのことを気にしてる?
「あたしさぁ、すぐ頭にきちゃうタイプでさぁ」
言いにくそうに祥子はそこで言葉を止めた。
やっぱり、教室でのことを気にしていたんだ。
「わたしね、すごくうれしかったよ」
「そっか。そう言ってくれるなら気持ちが楽になる」
祥子は照れくさそうに窓の外に目線を外した。
「わたしは逆で黙っちゃうから、祥子みたいにハッキリと自分の気持ちを言えることがうらやましい」
「うらやましいってこっちの台詞だけど?」
「…どうして?」
不思議がるわたしの手を、祥子は両手でがっしりと掴んでぶんぶん振りはじめた。
その目はキラキラと輝いている。
「だって鈴は逢坂くんと幼なじみなんでしょ?鈴のおかげであの逢坂くんと話せたし、鈴がいれば逢坂くんと話せるし。これからも仲良くしよーねっ! 」
隠すこともせずに、あっけらかんと下心を話す祥子は清々しく思えて気持ちがいい。
もしかしたら祥子がこの学校での初めての友達になるかもしれないと思うと、わたしは嬉しくなってきた。