猫の湯~きみと離れていなければ~

ほとんどの生徒が帰ったあとの校内はシーンと静まり返っていて、わたしの足音だけが廊下に響いていた。


入学式の後、書類の確認で職員室に呼ばれたわたしは、今ごろ豪華なランチを堪能しているママに心の中で文句を言いながら、陽向が待っててくれている教室に早足で戻っているところ。


ママは本当にいい加減すぎるんだから。


前の住所と今の住所の番地、それに電話番号までごっちゃごちゃになっているじゃない。


分からないなら聞いてくれればいいのに。


面倒くさくなって確めもしなかったに決まってるんだから。


まぁ、確認自体はすぐに終わったんだけど。


担任のおじいちゃん先生が、前に住んでいた所の近くに実家があったとかなんとかで昔話に花が咲いてしまって、かなり時間がかかってしまった。


『待ってるぞー』


なんて言ってた陽向は待つのが面倒くさくなって、先に帰ってしまったかもしれない。


なんて考えて不安になってしまう。


わたしの知っている陽向なら絶対に待っているのは分かってるのに。
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