猫の湯~きみと離れていなければ~
あいかわらずの地味な雰囲気と、個性のないマニュアル通りの制服姿に、ため息が出てくる。
少しでも女の子らくし見られたいと思って、ようやく胸まで伸びた髪をブラシでときなおし、前髪を手で整えると、いつもはつけない桜色のリップクリームを塗り直した。
これがわたしにできる精一杯のおしゃれと個性の演出。
そして数えきれない程しているトレーニングの最終チェック。
鏡の中のわたしに笑顔を見せて少し首を傾ける。
「…久しぶりだね。元気にしてた? 」
鏡にうつる表情は、頬と口角を意識してあげているだけの顔。
親にカメラを向けられて『笑ってー』と言われた子供が、面倒くさいときに見せる作り笑顔そのもの。
上達するどころか、どんどん不自然になってきてるし。
こんなひきつった顔で会うつもりなの?
…第一印象が悪すぎる。