猫の湯~きみと離れていなければ~
「何してるのよー? 」
そう言いながら階段を上がってくるママの足音にびっくりしたわたしは、サッと笑顔を元の顔に戻した。
ほら、やっぱりきた。
「もう、ママうるさいっ! 今行くってば」
『入ってこないで』という気持ちと軽い八つ当たりを込めて答えると、ママの足音はピタッと止まった。
引き返していく足音に変わったのを確認すると、あわてて机に手をかけた。
そして引き出しの中から、女子高生が持っているにはかなり違和感のある小さな缶を取り出した。
それは子供向けのアニメ“海賊シャーク”の船長が描かれている缶で、古くなってきていて、開けるのには少し力がいる。
中に入っているのは鉛筆で書かれた幼い文字のバースデーカードと、楕円形のとんぼ玉のペンダント。
燃えたぎる溶岩のように赤いとんぼ玉には、金色の曲線といくつかの黄色い小花の模様が描かれていてる。
あ、また動いてる
時々、その金の曲線は流れるように動くことがあって、その流れに乗るように小花の模様も一緒に動いていた。
それにその小花は、受け取ったときは間違いなくつぼみの状態だったのに。