猫の湯~きみと離れていなければ~
わたしはベンチには座らず、窓から見える景色を眺めた。
ジャングルジムの公園、陽向といつも待ち合わせをしていた川に架かる橋。
そのもっと向こうに小学校とか神社があるはずだけれど、この高さからは見えにくい。
でも6年前の記憶とほとんど何も変わっていない気がする。
「懐かしいだろ? 鈴が住んでたアパートはあれな」
ゲームを終えた陽向が側にやってきて、古いアパートを指差した。
「うん、あんなに古いのにまだあったんだね。陽向の家も見える」
「なぁ、…今度の日曜さ、俺んち来ない? 」
「え? 」
突然の陽向の提案に驚いてしまった。
「…ごめん。日曜日は前の学校の友達と会うの」
そんな約束なんてないんだけれど。
「じゃあ土曜は? 学校終わってから」
「えっと、…土曜日の夕方から泊まりにいくから」
これも嘘。
やだな…、陽向に嘘なんてつきたくないのに。
今日は嘘ばっかりついてる。