猫の湯~きみと離れていなければ~

「じゃあ来週! それなら空いてるだろ? 」

「…どうしたの? 学校じゃダメなの? 」


あまりのしつこさに少し驚いてしまう。


「うちじゃないと絶対にダメ。じゃあ今からは? 」


これ以上断り続けるのは多分、不可能だと思えた。


「今からなんて無理。まだ部屋の片付けも終わってないし、…土曜の学校終わってからでいい? すぐに帰るけど」


これなら『泊まりに行くから』って理由で長居せずに済む。

わたしに嘘をつかれているのに、うれしそうにガッツポーズをしている陽向に胸が痛んできた。


「陽向の家で何かあるの? 」

「会わせたいやつがいるんだ」

「だれ? …おじちゃん? 」

「父さんなわけないっしょ。会ってからのお楽しみ。よーし帰ろうぜ」


そう言うと陽向はエスカレーターは使わずに、階段の方向へと向かいはじめた。


やっぱりまだ苦手なのバレてたんだね。


さっきあんなにきつく言ったわたしに、黙って気を配ってくれる優しさがうれしくて、そして切なくなってくる。


それにしても、会わせたいやつが誰のことなのかさっぱり検討がつかない。


陽向は今からでもって言ってたから、それなりに融通がきく人なんだろうけど。

おじさんでも藤子おばちゃんでもないんだよね…。






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