猫の湯~きみと離れていなければ~
「あれ見て、あれ」
陽向が河川敷を指さした。
そこでは数組の人たちがお花見をしていて、子供たちがきゃあきゃあとはしゃぎまわっている。
その子供たちに、幼かった頃の自分たちの姿を重ね合わせて、わたしたちは自然と微笑みあっていた。
「俺たちもよくここで花見したよなー」
「うん。藤子おばちゃんの特製からあげは絶品だったよね。また食べたいなー」
毎日が楽しくて、なんにも考えずにいたあの頃。
もし戻れたとしたら、わたしは陽向に思いを伝えることができたのかなと考えてしまう。
ううん、きっとその時間を壊したくはなくて、わたしはやっぱり何もいえなかったと思う。