猫の湯~きみと離れていなければ~

1階に降りると『待っていました』とばかりにママの純子がスマホを向けて待ちかまえていた。


『早くしなさい』って言っていたのに、写真を撮る時間はあるのね。


いつも笑顔で楽観的なママ。
たまにいい加減で、せっかちなところもあるけれど。

でもそんなママのことが大好きだし、憧れでもある。


それにほんの少しだけでもいいから、ママの性格がわたしに遺伝していたら、小さなことも、どんなに大きなことも悩まなくていいのにって常々思ってしまう。



「何してたのよ? 」


ママは画面のわたしに問いかけながら、ピントを合わせている。


「女の子は準備に時間がかかるの」

「あっそ。はーい笑って笑って、パパに送ったら泣いて喜ぶわね」

「やだ、パパに送るの? 会社の人に見せないでって言っておいてよ」


娘バカのパパなら絶対に見せびらかすに決まっている。


どんな顔で写っていても周りは気を使って『可愛いですね』『パパさんにそっくりだぁ』って言うしかないのに。


パパはそんな社交辞令をまともに受けてしまうから恥ずかしくて仕方がない。
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