猫の湯~きみと離れていなければ~
「あーあ、行っちゃった」
寂しそうに副会長を見送る陽向の背中に、わたしはいつの間にかしがみついていて、慌てて離れた。
「で、いつから? 前は猫好きだったじゃん」
立ち上がった陽向は少し寂しそうにわたしを見ている。
「好きなわけないでしょ? 猫ってだけで見るのもいやなの。不気味だし汚、」
思わず出た言葉を止めたが遅かった。
「あー、それねー」
陽向はガッカリしたようにつぶやいた。
「気味が悪いってのは人それぞれなんだろうけどさ。汚いとか臭いってマーキングとかトイレのことだよな? それを言ったらどの動物もだし、それに猫って体臭もないし」
猫に対してのわたしの暴言に、陽向が快く思っていないのが伝わってくる。
陽向の飼ってる猫はきれいだと思ったし、他の猫はもしかすれば可愛いのかもしれない。
でも…、あの黒猫は違う。
あの黒猫に会うと本当にろくなことがない。
今日だけで何回目の…。
今のこの空気だって、作り出してしまったのはわたしだけど、原因はあの黒猫だし。