猫の湯~きみと離れていなければ~

「じゃあ無事に送り届けたことだし、今日は帰りますかねー」

「遠くなのにごめんね」

「でた。ま~た鈴の悪いクセ」


陽向はわたしの頭にぽんっと手を置くと、かがんで目を合わせてきた。


やだっ、顔が近いっ


突然のことに、わたしはみるみるうちに顔が熱くなっていった。

それにどうやって息をしていいのか分からなくなって、余計に鼓動が早くなっていく。


「『ごめん』じゃなくて『ありがとう』って俺は言ってほしい。ほら言ってみて? 」


恥ずかしすぎて、手を振り払いたい。


けど、


優しく誘導してくる陽向に逆らえない。


「…うん。……陽向、送ってくれてありがと」

「どういたしまして」


陽向は納得したようにうんうんと笑うと、わたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。


触れられたところがくすぐったい。

急に陽向が大人っぽくなった気がして、ドキドキしてしまう。



「じゃ、また明日なー」



帰りはじめた陽向に『気をつけてね』とか『またね』っていう気の効いた言葉すらかけることができない。


ボーッとしながら陽向を見送っているわたしに、陽向は姿が見えなくなる直前に1度振りかえって大きく手を振ってくれた。



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