秘めた想いが実るとき
少しブルーな夜

“結婚、おめでとう”

この言葉を私は一年で三回は言った気がする。

友人だけならまだしも、勤務先の後輩にまで先を越されている今日この頃。
顔は笑顔で祝福し、心の中では舌打ちしている自分にウンザリする。

新藤唯香、二十八歳。

ミヤでトータル何人目だろう……。
指を折り数えてみたけど、五人を越えて考えるのを放棄した。

行きつけのバーのカウンター席で頬杖を付き、ジンライムの入ったグラスを眺める。

『ダークムーン』
カウンター席のみの、こじんまりとしたバーは隠れ家みたいだ。
暖色系のライトに照らされた店内はすごく落ち着ける。

友人の結婚式が終わり、自然とここに足が向いていた。


「どうしたんだい?ボーっとして」

声をかけてきたのは、このバーのオーナーの笠井さん。

孫を溺愛する優しいおじいちゃんだ。
よく孫の自慢話を聞かされる。

実際、笠井さんにおじいちゃんなんて言ったら怒られそうだから言わないけど。

「今日、友達の結婚式だったんですよ」

「へぇ、それは目出度いね」

「めでたい……か。そうですね。ブーケトスでブーケをゲットしちゃいました」

新婦が狙って投げたのか?というぐらい真っ直ぐに私のもとへ飛んできた。

「そうかい。じゃあ、次は唯香ちゃんの番だな」

笠井さんに屈託のない笑顔を向けられ、複雑な気分になる。
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