秘めた想いが実るとき

『ダークムーン』に着いたのは十九時前。
開店時間は十九時だからあと少しと思っていたんだけど、ドアの前には“貸し切り”のプレートがかかっていた。

え、どういうこと?

今日は何かのイベントがあるんだろうか。
だったら、無理だよね。
でも、誕生日だし自分へのプレゼントとしてほんの少しでもいいから朔斗の顔が見たくて。

往生際悪く、ドアが開くか確認してみようと思った。
バーのドアに手をかけると、鍵がかかっていないことに気付く。
恐る恐る開けると、ドアベルがカランと鳴った。

こっそり覗いてみると、店内にお客さんはいなくて普段と変わりない空間が広がっている。

あれ?まだなのかな。

奥に人の気配がするけど、貸し切りなら準備で忙しいのかも知れない。

黙ってバーのドアを閉めようとしたら、奥から朔斗が出てきた。

「あ、唯香。何してんだよ。来てたんなら声をかければいいだろ」

「貸し切りなんでしょ。私、邪魔になるんじゃ……」

「あぁ、貸し切りだよ。お前のな。そこ、座れよ」

当たり前のようにそう言って、シャンパングラスを手に取る。
私は戸惑いながら、いつも座っているカウンターの席に腰掛けた。

「ねぇ、私の貸し切りってどういうこと?」

「今日、誕生日だろ」

「嘘、覚えてくれていたんだ……」

「あのなぁ、お前がしつこく言ってたから嫌でも覚える」

呆れたような表情をする。

私は予想外の展開に自然と頬が緩む。
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