谷穴町のよろず屋
最初は遠くから見ているだけだった女が徐々に自分に近づいてきている。
通常ならば、恐怖さえ覚えるこの現象を涼夜はまるで食事やトイレのように、日常生活の一部として過ごしていた。
(たかが幽霊に騒ぐなんてめんどくさい………)
涼夜にとって、幽霊は日常の一つ
彼は視える人間なのだ。
両親は知らないが、祖母も視える人間だった。
小さい頃からみじかに感じる人でないものの息遣いは彼の日常だ。
……………ただ一つ、困ることがあるとすれば彼は視えるだけでなく触れることができる。祖母は視えるが触れない人間だったので、自分はその分力が強いと言われたが、自分には払う力もないのでありがた迷惑なだけだった。
自分の周りでそういうものに詳しいのは祖母だけだったので、今までは何かあると祖母に相談していたが、そんな彼女も1年前にとうとう自分を残して死んでいってしまった。
普段はあまり何にも執着がないが自分でもおばあちゃんっ子だった自覚があるために、かなり辛かった。
祖母との思い出を懐かしんでる間に学校に着いた。繰り返されるくだらない日常に退屈を感じながら、教室のドアを開けまっすぐに自分の席に着く。
後数分で授業が始まるが、隣の席はいつも通り空席だ。そろそろ机から異臭がしていてくさいので早く掃除してもらいたい。
臭いに我慢できず、窓側の席なのをいいことに窓を開ける。
秋風が頬をくすぐり、首元で祖母の形見のネックレスが揺れた…………