谷穴町のよろず屋
数学教師の説明を聞きながら、欠伸をかみ殺す。この教師は、授業態度にうるさいので要注意だ。


いい加減、数学の公式も見飽きてきたので気付かれないようそろりと隣に目を移す。

「…………っ」

(やっぱり目あってるよな?)


隣の席の薄氷は、遅れて2限目から授業に参加していた。遅れて来た理由は、彼女が今制服ではなく体操着で授業を受けていることから大方の予想はつくが、だからと言って面倒ごとに自分から関わる気はない。





………関わる気はないのだが、最近やけに彼女と目が合う。
いや、実際あっているかは目が隠れるぐらい伸びた前髪と、分厚い眼鏡のせいで分からない。


(……一体何なんだ?)










隣の席の薄氷白無はいじめられている。
原因は主に彼女の格好だろう。目が見えないくらい長い前髪に、いつの時代のものだと突っ込みたくなる分厚い眼鏡。
これでいじめられない方が驚きだ。
しかも本人の性格も暗く話すのは必要最低限、いじめられてる時でさえ黙りで逆に相手の怒りを煽っているという状態。


俺は自分で言うのもなんだが、顔がいい。
学年で3番以内には入ると思う。身長も高いし、ぶっちゃけモテる。


(…………もしかして俺のことを好きとか?)



自分で思って、直ぐにあり得ないと考え直す。
好きになられる要素がない。薄氷とは話したことがないし、そもそも俺たちの間にはクラスメイトという関わりしかない。


(…………でも、目が合うようになったのってあの悪夢を見るようになってからなんだよな)



「生霊」という文字が頭をよぎるが、あの女と薄氷はあまりに似ていなかった。
普通生霊というものは、その本人に似た姿で現れると祖母が言っていたのを思い出す。





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