グリーン・デイ





「『グリーン・デイ』の意味は知ってるか?」



「『緑の日』じゃないの?」



 父がしわしわの手で「違う。」とジェスチャーした。



「『グリーン・デイ』はバークレーのスラングで、『親元から離れ、独り立ちする日』だそうだ。」



「バークレー?」



 「スラング」の意味はわかる。俗語だ。しかし、「バークレー」の意味はわからなかった。



「そこは知らなくてもいいだろう。とにかく、何かあったら母さんのこと頼むな?」



 僕はその言葉に返答するのが嫌だった。ここで了承すれば、父がこのままいなくなってしまうような気がしたのだ。父の死を受け入れることになってしまう。かと言って、断れば、父は不安を抱えたまま死んで行ってしまうかもしれない。



 どちらにせよ、僕はきっと後悔をすることになる。究極の選択で、どちらを選ぶべきなのかわからず、結局、僕は黙ってカーテンを閉め、病室を後にした。



 病棟を出ると、すでに日が暮れていて、真っ暗だった。東京よりはほんの気持ち程度に星が輝いているように見えた。その星一つ一つがどれも滲んでいて____



 僕は目が霞んでいて、しばらく車を発進させることが出来なかった。




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