グリーン・デイ





 僕は執拗ないじめを受けた。初めはほんの好奇心ような軽いものだった。しかし、徐々に身体のコンディションを上げていくウォーミングアップと同じで、いじめのレベルもどんどん上がっていた。



 周りもみんないじめに加担する。それが集団行動の心理であって、足並みを崩せば、僕と同じになると考えたのだろう。皮肉なことに、彼らの考えは正しかった。



 あの時、この場所で僕は溺れた。この深い琵琶湖に投げ込まれた。



 友達に担がれ、酷い言葉を浴びせられ、「いっせーので!」のタイミングでドボンと投げ込まれた。



 ちょうどこの時期くらいのことで、水はそれほど冷たくなかったが、僕の心は完全に冷え切っていた。どうしてこうなったのか。ただ中学生らしくない夢を持っていて、その夢に向かって頑張っていただけなのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならなかったのか。



 冷たかった。冬の雪解け水のような涙が流れ、琵琶湖の水と混ざり合って、重力に沿って、どんどん沈んでいった。



 きっとみんなはすぐに浮上してくると思っていたはずだ。ただ、浮上したところで、僕を優しく迎えてくれる人なんているのか? 一命を取り止めたところで、現状が変わるのか? そうはとても思えなかった。このまま必死に浮上しても、僕の居場所はどこにもない。



 そして、それからは意識がなかった。気が付いたら病院に居て、母と担任の先生がいた。



 何があったのか訊かれたが、僕は「自分で落ちた。」と答えた。そう答えるしかなかったのだ。もし、正直に言えば、彼らは何を思うだろうか。僕に対する当たりがより一層強くなるだけじゃないのか。殺されるかもしれない。とてもじゃないが言えなかったのだ。



 言うことを許されなかったのだ。




< 116 / 136 >

この作品をシェア

pagetop