グリーン・デイ
翌日の午後、僕は東京に帰ることにした。
本当は父の容態も気になって、もう少しここに残ろうかとも思ったが、「グリーン・デイ」はもう過ぎている。僕は僕を幸せにするために前を向かなければならなかった。
「健二、駅まで送ろうか?」
僕は「いい。」と断った。
「グリーン・デイだからね。」
「はあ?」
母は怪訝そうに、半ば心配そうに僕を見ていた。心配しなくていい。僕はまともだ。少なくともここに来るまでより、大きく、朗らかで、清々しい。
玄関の扉を開けた。てっぺんに昇った太陽の光がじりじりと照り付けていて、痛い。ああ、見栄を張らないで、送ってもらうべきだっただろうか。いや、今なら間に合うだろうか……まあ、いい。汗をかけばタオルで拭けばいい。タオルがなければ、Tシャツの袖で拭えばいい。
家を出るそのまさに一歩を踏み出そうとしたとき、母が突拍子もないことを僕に訊いた。
「あ、そういえばあんた、彼女おるんやろ?」
「はあ?」僕は思わず振り返った。
「いないよ。そんなもん。」
母はそれを聞くと、「そうよねえ、我が可愛い息子やってことを差し引いても、あんなに可愛らしいお嬢さんがあんたの彼女なわけないわよね。新手の詐欺かしら……。」と言った。
「何の話?」