グリーン・デイ
僕はトイレを流すのも忘れて、スーツケースにノートパソコンを詰め込んでいるアヤカの元へ走った。
「僕、パスポート持ってないんだけど。」
アヤカは僕を信じられないという顔で見た。
「パスポートないの? あなた、まさか初海外?」
「そうだ。」僕は答えた。
「修学旅行は?」
「小学生の時は九州、中学生の時は沖縄、高校生の時なんか、東京。」
「それじゃ、パスポート持っていなくてもおかしくないわね。」
アヤカが露骨に落胆するので、僕はなんだか悪いことをしたような気持ちになった。せっかく二週間も休みをとったにも関わらず、サンマリノに行けない。もしかしたらサンマリノに行くために貯金をしていたのかもしれない。旅費から何まで全部自分が出すということを考えていたのかもしれない。その厚意だけでも有り難く受け取りたいところだが、生憎、そんな口約束のようなもので納得するアヤカじゃない。
僕ならきっとそうだから。アヤカもきっとそうに違いない。
となれば、この二週間を充実なものにしなければいけない。講義もあるが、そんなものどうでもいい。二週間くらい休んだところでついていけない学校でもない。テストもない。
旅行か。たまにはいいかもしれない。