グリーン・デイ
「国内でもいいなら、旅行行くか?」
アヤカは顔を上げて僕を見た。
「本当?」
「ああ、どうせなら行ったことないところに行こう。」
アヤカは目を輝かせ、僕に抱きつき、それからどこから買ってきたのか旅行雑誌を何冊も広げ、ここでもない、ここでもないといろんな地名を挙げた。
「あ! じゃあ京都は?」
京都か。夏前の京都に何の魅力があるかは知らないが、旅行には最適な場所だ。まあ、僕は中学のサッカーの試合で遠征で一度行ったことがあったが、それは黙っておくことにした。二人とも行ったことのないところなんて、旅行で行くようなところじゃない。
「京都に行こうか。」
「そうどすねー! 京都に行こうー!」
そう笑顔で答え、アヤカ再び荷造りを始めた。鼻歌はいつの間にかグリーン・デイの「バスケットケース」に変わっていた。
「無駄にならなくてよかったわ。本当はサンマリノがよかったんだけど、京都も日本のサンマリノみたいなもんよね! 世界を知るにはまず日本から! これは教訓ね。」
アヤカの荷造りを手伝いながら、僕には心配なことがあった。この二日酔いの身体が旅行に耐えることができるかどうかだ。飛行機か、新幹線に揺られながら荷物を抱えて、清水寺へと続く清水坂を上り、三年坂を下る……ああ、ダメだ。三年坂でぶっ倒れてしまう自分を嫌でも想像してしまう。享年21歳。呆気ない死だ。
アヤカがトイレに入った。僕はアヤカの代わりに自分の着替えをスーツケースに詰めた。一つの大きなスーツケースに二人分の着替えが入り交じる。ノートパソコンは置いていった。この旅には必要ない。デジカメを持っておいた方がよかったと思った。しかしまあ、使い捨てカメラを買えばいい。それもできなければ、目に焼き付ければいい。
それにしても、アヤカは常にパスポートを持ち歩いているのだろうか。
「ねえ、おしっこぐらい流してよね?」
トイレからアヤカが呆れたように言い、水を流す音が聴こえた。計二回聴こえた。