グリーン・デイ
「新幹線ノ自由席ハ戦場ダヨ!」
とラモス瑠偉の名言を引用して言うアヤカの後ろにぴったりとついて、1本目の新幹線は敢えて見送り、そのまま先頭に並ぶこと10分後に着た新幹線に乗った。東海道新幹線は東京駅が先発で、アヤカの考えでは、こっちのほうが確実に座れるとのことだった。
ドアが開くなり、急いで乗り込んだアヤカは3人掛けの座席を楽々確保することができた。窓側にアヤカが座り、通路側にサラリーマンが座った。僕はその二人に挟まれる形で座ることになった。
一人は窓に顔をくっつけ、まるで子供みたいにホームにいる外国人親子の旅行者に手を振っていて、もう一人はキオスクで買ってきたらしい缶ビールを開け、テーブルの上に柿の種をばら撒いている。力士に挟まれるよりはマシだが、かと言って我慢できるものでもない。居た堪れなくなり、僕は席を立った。
「どこ行くの?」
「ちょっとトイレ。」
もちろん、新幹線に乗る前に済ましてあったから、トイレには行かず、デッキに向かった。喫煙所のある方のデッキで、平日は大体、喫煙所はサラリーマンでごった返す。
煙草の匂いの染みついたスーツの列をすり抜けると、これまたサラリーマンがデッキでいそいそと電話をかけていた。相手は取引先なのか、電話越しにペコペコと頭を下げている。やれやれ、サラリーマンというのも楽じゃないようだ。
まるで将来の自分を見ているようで、今から憂鬱になる。こんな大人になるのかと思うと、大人になんかならずに、それこそアヤカの理想とする男性像である、夢を追い求めるピーターパンで居たい。しかし、守りたい人ができたときは、夢を諦めるときなのだと思う。夢を叶えるのも確かにすごいけど、夢を諦めるのはもっと勇気のいることで、そっちのほうがほんのちょっとだけ尊敬する。
すっかり気分が沈み、ふと窓外に目を向けると、景色が動き出した。競馬場を抜け、徐々にスピードが上がってくる。しかし、まだ本領を発揮しない。品川駅を出発してから初めて新幹線に乗ったという気分を味わえるのだ。
新幹線には何度も乗ったことがある。上京するときも乗ったし、里帰りでもよく利用する。しかし、飛行機はまだ乗ったことがない。待つのが嫌いなのだ。
夜行バスも使ったことがあるが、東京から地元へ帰る途中のバスが事故を起こし、新宿で一泊する羽目になって以来、使っていない。新幹線が一番早くて、一番安全で、一番旅行気分を味わえる乗り物だと思う。
アヤカが新幹線を使うと言ってくれて本当によかった。