グリーン・デイ
約三時間ほどで新幹線は京都駅に着いた。僕がスーツケースを持ち、改札を抜けようとした時、ふとアヤカが立ち止まった。
「どうした?」
「あれ見て。」
アヤカの示した先には電光掲示板があって、僕の過去の記憶を呼び起こす、不吉な名前が表示されていた。
「琵琶湖線……琵琶湖があるってこと?」
「そうだな。」僕は言った。
「ねえ、琵琶湖見に行かない?」
僕は何も言わず、スーツケースをを転がして改札を抜けた。行かない。関西圏であるにも関わらず、それを周りに認知されていない。県民はケツの穴の小さい人間ばかりで、ああ____。
滋賀県に何か恨みがあるのかと言われれば、ないとは言い切れないが、そこまで悪く言わなくてもいいと自分でも思う。しかし、あの乾いた町、滋賀県よ。僕が嫌いな町なのだ。琵琶湖が膨張して、滋賀県そっくりの形に湖になってしまえばいいとでさえ思っている。
そんなことを知らないアヤカはきょとんとした表情で、僕に遅れて改札を抜けた。その瞬間からもうここは京都だ。懐かしい感じは一切なく、ほとんど初めてに近い新鮮さだった。
改札も洒落ていて、外国人が高そうな一眼レフカメラを肩にかけ、駅員に身振り手振りで何かを説明している。また修学旅行生なのか、パンフレットを持って電光掲示板を見上げている高校生も四、五人いた。
さて、これからどこへ行こうか、何をしようか。プランはない。プランのない自由な旅こそ、真の旅の目的じゃないかと思う。行動が制限されている修学旅行や旗を見失わないようにぞろぞろ歩くのが旅じゃない。
そういう意味で言えば、旅をすること自体、初めてかもしれない。二日酔いはいつの間にか消えていて、もう京都を楽しむモードに切り替わっていた。
「さあ、楽しもうか!」
僕は空いたほうの手でアヤカの手を引いた。あんまり急ぐもんだから、アヤカに「落ち着いて、落ち着いて。」と促された。
しかし、不思議と恥ずかしいとは思わなかった。