グリーン・デイ
幻想世界Ⅶ-太宰に想いを馳せる夜-
それからは、京都タワーに行ったり、金閣寺に行ったり、京都御所を行ったりと京都の有名どころを思い付きで周った。
すっかり京都を満喫して、それからホテルに戻った。ロンドンタクシーの運転手さんにお礼を言い、料金は全額アヤカが支払った。男としては、女に奢ってもらうほどみっともない、面子がつぶれるようなことはない。だからと言って、払えるかどうかもわからない。頼りない男で自分で自分を情けなく思った。
アヤカが料金を支払っている間に僕はホテルに入り、フロントで部屋の鍵を頼んだ。フカフカのソファーに座って鍵を待っていると、ロビーのテレビの横に、フォークギターが立てかけてあるのを見つけた。
近づいて見てみると、モーリスの年期の入ったフォークギターだった。あちこちにステッカーやサインのようなものが書かれていて、バックパッカーのスーツケースのようだった。
僕があまりにも熱心に見ているもんだから、従業員のおばさんから声を掛けられた。
「ギターにお詳しいんですか?」
「ええ、まあ。」
おばさんはモーリスのフォークギターを手に取った。
「このギターはお客さんの忘れ物なんですよ。当ホテルをご利用になるお客様は、お兄さんやお嬢さんのように旅行目的の人が多いでしょう? なかなか引き取り手もなくて、その上、従業員の中にも弾ける者がおりませんから、ずっとここに置いてあるんですわ。」
おばさんの「お嬢さん」という言葉で僕は後ろを振り返った。思った通りアヤカが膝に手を当てて立っていて、フォークギターを覗き込んでいた。
「どうせなら弾いてみてよ。」