グリーン・デイ





 アヤカを自分のこの手で汚したい。



 きっとアヤカもそれを望んでいる。でもそれをするのが怖かった。ここは幻想世界であって、現実の世界ではない。アヤカのまだ知らない未知の領域に踏み込んで、それがきっかけとなって幻想世界に終わりが来るのではないかと思ったのだ。



 知ることは好奇心だが、知り過ぎればそれは時として好奇心も探求心をも超える。超人。僕は要注意人物として認識され、現実世界に引き戻される。それからは、一生、堕落した生活を送り、どんなにギターをかき鳴らしても、どんなに泣ける小説を読んだとしても、お腹いっぱい寿司を食べたとしても、癒されることはなく、その先にあるであろう、まだ見ぬ快楽を求め続ける人生を送ることになるだろう。それがどんなに惨い仕打ちかわかったもんじゃない。



 煙草を三本吸い終え、ベッドに入ると、アヤカは寝息を立てていた。僕はそれを抱き寄せた。首筋に寝息がかかり、思わず僕はそっと首筋にキスをした。



 アヤカのその透き通った肌がカーテンのわずかな隙間から差し込んだ月の光によって、神々しく、神秘を感じさせた。かぐや姫が月へ帰る前の景色はきっとこんな感じではないだろうか。



 そう思った瞬間、ああ、そうか。今宵、アヤカは月へ帰るんだ。そう思った。また不思議と僕はそれを受け入れていた。この神秘的な光に照らされ、まるで菩薩さまにでもなったかのように清々しい気持ちになった。


 悲しいはずなのに、涙は流れてくれない。涙が流れないこの悲しさは、愛しさだ。




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