グリーン・デイ





 ともちんは、アイスカフェオレを喉を鳴らしながら、まるで部活終わりの高校生のように飲んだ。その飲みっぷりが気に入って、傍にピッチャーでもあれば、おかわりを注いであげたくなった。



 なんだ、可愛いところもあるじゃないか。愛嬌があって、まるでフェレットを見ているような気分だった。



「都幾川美花の小説って、僕読んだことないんですけど、面白いですか?」



 僕は嘘をついた。その方が会話が長続きすると思ったのだ。



 その思惑は見事的中したようで、ともちんは、席を立って興奮気味に言った。



「そりゃ面白いですよ! 緻密なミステリーを書く作家さんなんですけど、最近は大人の恋愛を描く作品も多いんです。こう、何と言うか、描写が生々しくて、胸が締め付けられるような気持ちになるんです! 例えば、「マリック、きっと」なんて、主人公マリックがロッテって女性に恋をするんですけど、お互いに身分が違うんです。それを乗り越えるのかと思いきや、諦めるんですよ。身分が違うからこの恋は叶わないって。どうしてかわかりますか?」



「いいや。」僕は首を横に振った。



「それが運命だと思ったからなんです。マリックは、ロッテと普通の身分同士で出会っていたら間違いなく結婚して幸せな家庭を築いていたでしょう。でも、マリックはこう考えたんです。この人と付き合ってはいけないとまるで神様から言われているような気がしたって。事実、マリックは数年後、ロッテとは違う、織物工場で働いていた女性と結婚して、2児のパパになるんです。そのうちの娘さんの結婚式の帰り道で偶然、ロッテと再会するんですけど、マリックはこう言い放つんです。」



 そう言って、ともちんは僕に顔を近づけた。




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