グリーン・デイ
「『キミと結婚をしないで本当によかった。』って。なんか、良いですよね、そういう失恋も。」
ともちんは、それから気づいたように、周りを見回し、急に恥ずかしくなったのか長い前髪で顔を隠しながら席に座った。この人は、本当に小説が好きなんだと思った。
僕が嫌いなジャンルの小説を。
「それで、あなたはどういう小説が好きなんですか?」
「え? ああ、ケルアックとかカフカとか……。」
「海外小説ですか……私はちょっと読まなくて……。」
ともちんが落胆したのは見ていてわかった。ただ、これは僕も同じで、海外小説について唯一話せる相手と出会ったと思っていただけに、落胆した。ただ、そのために日本文学も読んできたのだ。
「小早川祈念とかは読みますよ?」
ともちんの表情がみるみる明るくなる。
「すごいです! 祈念さんファンですか?」
僕は首を振った。
「仮にそうだったとしても、にわかですよ。ファンから怒られてしまう。」
ともちんは口元に手を添えて笑った。僕はその表情を見ながらホットカフェオレを一口飲んだ。