グリーン・デイ
駅に着き、僕はともちんに正直に言った。
「キミは可愛らしくて、表情豊かで、きっとキミと一緒に暮らしていると心が和んで、毎日がとても楽しいものになると思う。そして、ゆくゆくは結婚して、平凡だけど幸せな家庭を築くだろう。でも、僕はもうキミとは会えない。」
「どうしてですか?」
「話せば長くなるかもしれないけれど、キミには話す義務があるのかもしれない。僕はキミとこうして出会う前に一人の女性と出会ったんだ。そいつは、僕にぞっこんだった。引くくらいにね。僕はそいつと一緒に暮らし始めた。とても、他人のように思えなかったんだ。好きという感情ではなかった。でも、そいつと一緒に過ごしていくうちに、そいつといることがいつの間にか当たり前になっていたんだよ。サラリーマンが決まった電車に乗って、決まった時間に会社に行くような感覚さ。人間はそういう当たり前がなくなった時、その当たり前だった時間を何に変えてどう過ごせばいいのかわからなくなるんだ。事実、アヤカ……いや、そいつがいなくなってから僕の心にぽっかりと穴が空いてね。その穴を塞ぐコルク栓を探していたんだ。それがキミとの出会いさ。でも、キミじゃ駄目なんだ。やっぱりその穴を埋めるには、本来穴をあけた者が落とし前をつけなければ満たされないんだよ。勝手だよね。軽蔑するかい?」
「軽蔑します。」ともちんははっきりと言った。
「都幾川美花の小説、「マリック、きっと」のマリックは、織物工場の女性、私を選んだんです。でも、それが必ずしも幸せとは限らないんですよ。もちろん、ロッテを選んでいたとしてもです。私は、マリックには、ロッテを選んでほしかったんだと思います。どんな困難が待っていたとしても、きっと乗り越えた先に真の幸せが待っていたと思うんです。織物工場の女性とは築けなかった幸せが。だから、私はあなたにもそんな恋愛を送ってほしいです。そして、マリックが手に入れられなかった真の幸せを必ず手に入れてほしいです。」
僕はともちんの両手を握って礼を言った。深々と頭を下げた。すれ違う人が僕たちを好奇の目で見たが、気にならなかった。
本当にいい人だった。