心に届く歌







「……わかりました」




ドクさんが顎に手を当て何度も頷く。

ただ僕に触れただけで何がわかると言うのだ…。




「シエル様。
極度の貧血でございます」


「え?」


「眩暈に息切れなどの症状は貧血に当てはまります。

それにシエル様の爪を見せてもらったところ、
平らになっていまして、
それに下瞼を見たところ白くなっていました。

爪が平らになったり、白くなったりすることも貧血に当てはまります」


「……眩暈が、貧血だったんですか」


「ええ。
もしかして以前から自覚症状はありましたか?」


「……前からです。
気付いた時には眩暈が酷くて…目瞑ると楽になるので…」


「だから時折強く目を瞑っていらしたのですね?」


「はい……。
でも病院に行く暇なんてなくて……」


「これからゆっくり治していきましょう。
貧血は食事や睡眠で良くなりますから」


「…………」


「おそらくここ最近食べ物を戻してしまったのも、貧血が原因なのかもしれませんね。
貧血は吐き気を伴うこともありますから」


「……ごめんなさい…」


「謝ることなど一切ありません。

これからはわたくしが診ていきますから。
シエル様はゆっくりなさってくださいね」


「…………」





僕は眩暈が治ってきたので上体を起こした。




本当、この家の人は優しい。

ドクさんも、他の皆さんも。…エル様も。







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