心に届く歌
「シエル様、先ほどの話ですが」
「はい」
「勘違いはしないでください。
シエル様は一切悪くありません。
お嬢様がご自分の意志で、熱を出したあなたの看病をしたのですから」
「エル様の、意志で……?」
「ええ。
高熱を出し、時折うなされているシエル様を見て、お嬢様は自分であなたを看病したくて徹夜となったのですよ」
「どうして、そこまで……」
「お嬢様も実は学校に行っていないのですよ。
シエル様と同じですね」
「行っていないんですか……?」
聞いた話だけど、中央街にも学校はある。
しかもどこも名門と呼ばれる学校ばかりだ。
「お嬢様は、わたくしのような使用人ばかりに囲まれて幼少期を過ごされたまま今のお嬢様になりました。
友達も出来ず、恋愛はご両親が連れてくる許嫁がいるだけで、本物の恋愛を体験したことはなかった。
シエル様が初めてなのですよ。
お嬢様の前に現れた、一般国民の異性は」
あんなに優しいのだ。
僕みたいな奴にも優しいエル様なのだ。
友達のひとりやふたり、いると思っていた。
多くの人に囲まれて、あの優しさを多くの人に分け与えているものだと思っていた。