心に届く歌
ドクさんの目は真剣で。
嘘をついているように見えなかった。
「……僕なんかで、良いのですか」
「お嬢様の心に火をつけた存在であるシエル様です。
シエル様が適任でございます」
「ドクさんは……」
「わたくしはお嬢様の執事兼医者です。
四六時中お嬢様の傍にいることは不可能です。
現に昼間はわたくし、お屋敷の中にいることもありますが、基本は出て診療所にいます」
「…………」
「シエル様。
この話はわたくしが提案したのではありません」
「え?」
「提案したのは、旦那様と奥様です。
大変驚いていらっしゃいましたよ。
勉強ばかりでつまらなそうにしていたご息女が、
あなたを見送る際友達だと言っていたことに。
実感がないかもしれませんが、
シエル様はお嬢様を変えたのでございますよ」
僕、なんかが。
次期国王のエル様を変えた。
……夢かと思うほど、現実離れした話に、僕は何も言えなかった。