心に届く歌







「シエル」


「……エル、様?」




毛布を片手に、エル様が僕の傍に立っていた。

そして僕の隣に座り、まだ眠たそうな瞳を可愛らしく細めた。




「わたしの執事になりなさい」


「…………」


「シエル。
あなたをあの家に返すつもりも、施設に送るつもりもないわ。

あなたはこの家で、第2の人生を歩むの」


「第2の、人生……?」


「あなたをこれ以上傷つけさせない。
この傷も、増やさない」




エル様が僕の左腕をそっと掴む。

左腕にはいつの間にか包帯が巻かれていた。





「……いつ、気付いたんですか…?
この傷は、自分でつけているって……」


「他の傷と形状が違うってドクが言っていたからね。
他が故意に傷つけられた傷なら、この傷は自分でつけたんじゃないかって」


「……ごめんなさいっ……!」


「良いよ謝らないで。
逃げ道だったんだもんね。

だからこの傷は増やさない。

わたしがシエルを幸せにするから。
わたしのこと、お友達のこと信じてよ」





揺るぎない、何よりもあたたかな言葉で。

エル様は僕を見て笑った。





「あ~ほら、泣かないでよ!男の子でしょ?」


「うっ…ひっ、く……」


「まー涙は我慢するものじゃないもんね。
男が泣いちゃいけないなんて決まりないし。

良いよ泣いて、思う存分泣いて良いんだよ。シエル」


「……うぁぁぁ………うぁぁああんっ……」





初めてだった。

誰かの前で、こうして嬉し涙を流せたのは。

痛くて苦しくて泣いたことはいっぱいあるけど、嬉しさで泣いたのは初めてだった。





何か、変わる。

そう……僕は感じた。








< 125 / 539 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop