心に届く歌
「シエル」
「……エル、様?」
毛布を片手に、エル様が僕の傍に立っていた。
そして僕の隣に座り、まだ眠たそうな瞳を可愛らしく細めた。
「わたしの執事になりなさい」
「…………」
「シエル。
あなたをあの家に返すつもりも、施設に送るつもりもないわ。
あなたはこの家で、第2の人生を歩むの」
「第2の、人生……?」
「あなたをこれ以上傷つけさせない。
この傷も、増やさない」
エル様が僕の左腕をそっと掴む。
左腕にはいつの間にか包帯が巻かれていた。
「……いつ、気付いたんですか…?
この傷は、自分でつけているって……」
「他の傷と形状が違うってドクが言っていたからね。
他が故意に傷つけられた傷なら、この傷は自分でつけたんじゃないかって」
「……ごめんなさいっ……!」
「良いよ謝らないで。
逃げ道だったんだもんね。
だからこの傷は増やさない。
わたしがシエルを幸せにするから。
わたしのこと、お友達のこと信じてよ」
揺るぎない、何よりもあたたかな言葉で。
エル様は僕を見て笑った。
「あ~ほら、泣かないでよ!男の子でしょ?」
「うっ…ひっ、く……」
「まー涙は我慢するものじゃないもんね。
男が泣いちゃいけないなんて決まりないし。
良いよ泣いて、思う存分泣いて良いんだよ。シエル」
「……うぁぁぁ………うぁぁああんっ……」
初めてだった。
誰かの前で、こうして嬉し涙を流せたのは。
痛くて苦しくて泣いたことはいっぱいあるけど、嬉しさで泣いたのは初めてだった。
何か、変わる。
そう……僕は感じた。