心に届く歌
「セレーネ家に近付くことは出来ません。
ですから旦那様と奥様は、シエル様を施設に保護させようと致しました。
しかし、もしセレーネ夫妻がシエル様の居場所を突き止めてしまったりしたら、再びシエル様に危険が及ぶ。
旦那様と奥様も、大事なひとりの国民を苦しめたままにするつもりはありませんので、お嬢様の側近になることを言ったのですよ」
「でも、シエルの両親がシエルを見つけるってことはないじゃない」
「そうですが……念のため、です。
それにお嬢様にとって、シエル様が大切な存在だとは、旦那様と奥様もわかっておられます。
シエル様がお屋敷を出て行く際お嬢様が浮かべていた寂しそうな顔を、旦那様と奥様はバッチリ見ておりましたから」
わたしは鏡がない限り自分の顔は見えないけど。
お父様とお母様が気にするほど、わたしってば寂しそうな顔をしていたんだ?
「それでもいきなり側近って……」
「旦那様はティラン伯爵様に会い、シエル様のことを聞いていたのですよ」
「え?」
「ティラン伯爵様によれば、シエル様はクビという終わり方になってしまったものの、仕事の腕はかなりの腕前で、有能だったそうです。
執事にするには良いそうですよ」
「…………」
良かった。
これからもシエルと一緒にいられるのね。
心の奥底から、ふわりとあたたかいものが湧き上がった。