心に届く歌
「♪
太陽と月が巡り合う時
そこに生まれるのは優しさ
♪
…………。
♪
太陽と月が巡り合う時
そこに生まれるのは優しさ
♪」
同じフレーズを、何度も繰り返し口ずさむシエル。
その歌声には温度がないように聞こえた。
ピアノを小さな頃からやっているわたしは、いつの間にか絶対音感を見に付けていた。
……だからわかる。
シエルの歌には心がこもっていないと。
「シエル」
「……エル様」
「歌うのなら堂々と歌いなさい。
良い声しているんだから」
バスタオルを渡しながら言う。
もっと堂々と大きな声で心を込めたら、きっと良い歌になる。
「……ただの馬鹿のひとつ覚えですので。
気にしないでください」
バスタオルを受け取りながら呟くシエル。
するとドクが袋片手にやってきた。
「シエル様。
サイズが合えば良いのですが」
「僕小さいので大丈夫だと思います。
わざわざ僕なんかのためにありがとうございます」
「シエル様のためにお届けに来たのですよ」
自虐するシエルをスルーし、ドクが笑う。
シエルはにっこり笑うドクから目を逸らし、背を向けお風呂場へ向かった。