心に届く歌
ドクは掛けている銀縁眼鏡のブリッジ部分を手で押し上げると、
本に栞を挟み、部屋の中にある小さな台所へ向かった。
「お茶でも淹れましょうか。飲みますか?」
「欲しいわ!」
「ではすぐお淹れしますから待っていてくださいね」
わたしはドクが座っていたロッキングチェアに座り、
ドクの読んでいた本をめくる。
小難しい文字がたくさん並んでいてすぐに閉じた。
「ドクは真面目ね?
わたしはそんなドクが羨ましいわ」
「お嬢様の真面目の基準がわかりませんが、
わたくしは元々お嬢様と違い勉強が好きなので、
お嬢様が難しいと思われる本もわたくしは大好きなのですよ」
「頭の中の作りを是非見てみたいわ」
「作りを見てもお嬢様には到底理解出来ないかと」
「あっひどーい」
ちょっと毒舌なドクだけど、腕は確か。
小さな頃木に上り落っこちて怪我をしたわたしを、ドクはずっと手当てしてきてくれた。
ソレイユ家が認める、ソレイユ家専属のお医者様なのだ。
「お茶を淹れましたよお嬢様。どうぞ」
「ありがとうドク」
ティーカップに口をつけ飲むと、上品な香りと共に渋い味が広がる。
ドクはやっぱり、わたしの好みをわかっている。
「やっぱりドクの緑茶がわたしは1番だわ」
「お褒めに預かり光栄でございますよ、お嬢様」
紅茶よりも緑茶が大好きなわたしは
ドクのお茶を味わうようにゆっくり飲み干した。