心に届く歌
「エル。今日はあなたの許嫁候補を連れてきたわ」
無言で椅子から立ち上がり、無言でお母様と男――許嫁の待つ場所へ向かう。
髪は金髪でやけに目立ち、何より高そうなスーツを着崩しているのが勿体ない。
顔はなかなかのイケメンだから、もう少し身なりを正せば立派な坊ちゃんになれるはず。
わたしは無表情のままジッと許嫁を観察した。
「彼はプーセくん。
中心街ではかなり有名なお家のご子息よ。
頭も良くあなたと同い年なのに大学も出ていらっしゃるの。
きっとあなたに似合う素晴らしい旦那様になってくれるはずよ。
まずはお友達から始めてみなさい」
旦那様と言いながらお友達から始めるって…どういうこと?
結局仲が悪くても良くても、意味ないってこと?
「お母様は、プーセさんとわたしが結婚してほしいの?」
いつだって許嫁が来た時する質問。
お母様は予想していたのか、笑みを崩さず頷いた。
「ええ。
エルにとてもお似合いだと思うの」
「……じゃあ友達から始めるわね。
どういう相手だか知らないから」
「そうよね、出会ったばかりだもの。
プーセくん、エルをよろしくお願いしますわ。
明るくて良いのだけどたまにそこかキズだから、出来る限りサポートしてあげてちょうだいね」
「……わかりました」
敬語だけど、面倒そうな口調。
相手が自分の住む王国の妃だから、仕方なく敬語を使っている感じが伝わってくる。
伝わらないのか、お母様は部屋を出て行った。