心に届く歌
部屋に戻ると、ドクがシエルの額のタオルを変えている所だった。
「ドク。シエルの熱下がった?」
「ええ、先ほどより下がりましたよ」
「良かった。明日には治りそう?」
「ええ。何事もなければね」
わたしは穏やかな寝息を立てるシエルを見て微笑む。
「そういえばお嬢様」
「何かしら」
「シエル様先ほどからちょくちょく起きられるのですが。
もしかしてずっとそうでしたか?」
「……そういえばそうね。
シエル、15分以上寝ているの見たことないかも……」
どれだけ熱を出していても、眠たそうにしていても、15分以上寝ているシエルを見たことがない。
10分ほど経つと次第に起き、少し話してからもう1度眠り、10分ほど寝てまた起きるを繰り返している。
「しかも、昨日はほぼ寝ていないわよ」
「え?」
「夜中起きたら、窓の外ぼーって眺めていて、理由聞いたら“明日から学校だと思うと緊張して眠れない”とか言っていたわよ」
「……恐らく寝不足が原因の熱、でしょうね。
シエル様何故だか体調が不安定気味ですから」
学校に行くようお父様から言われて数日。
シエルは午前中ぼーっとして、時折眠って、午後に急に具合が悪くなることがちょくちょくあった。
だから今日の学校も不安があった。
大丈夫だとメールに書かれていたから安心していたんだけど、やっぱり熱出しちゃったか。
「15分以上寝ずに起きているのであれば、深く眠れていないのでしょうね。
ぐっすり眠ることが貧血防止に役立つのですが……」
「眠ること、怖いのかな」
「え?」
「怖いから眠れない……ってことないかしら?
例えば真っ暗になるのが怖い、とか」
「……もしかしたら有り得ますね、それ。
シエル様の今まで育ってきた環境はお世辞でも良いとは言えませんし」
「トラウマなのかなぁ……」
「一種の心の傷、とでもなっているのでしょうかね」
心の傷、かぁ。
そう思っていると、シエルの長い前髪が風も無いのに揺れる。
シエルが瞼を開けた証拠だ。