心に届く歌
「お嬢様……」
隣にドクがしゃがみ込み、そっとわたしの頭を撫でる。
「ドク……抱きついても良いかしら」
「……わたくしで良ければ、いつでもどうぞ」
ぎゅっとドクに抱きつく。
小さい頃、こうしてもらえると不思議と安心した。
両親が仕事で忙しく、抱きしめてもらえることがなかったからかもしれない。
「ごめんなさいドク……。
わたしの涙と鼻水で汚くなってしまうわ」
「気にしないでくださいお嬢様。
涙も鼻水も我慢するものではありません」
ドクが羽織る白衣の下に着るワイシャツが、わたしの涙で濡れて行く。
それでも、わたしの涙は止まらなかった。
ただ、子どものように大きな声を出して、わたしは泣いた。
ずっとずっと、わたしは泣いていた。
「……ごめんなさい、もう大丈夫よ」
「そうですか」
ドクから離れると、スッとハンカチが差し出される。
お礼を言い受け取り、涙を拭いた。
「洗って返すわ」
「いえ。
わたくしで洗いますので、お気にせず」
「……ありがとう」
ドクの優しさが、心に痛かった。
それでまた涙が出て、ハンカチで拭いた。
今日はハンカチにお世話になりそうな予感がした。