心に届く歌
さっきまでシエルがいたベッドに座っていると、
ドクが診療所の急患で呼ばれてしまったので、わたしは部屋にひとりきりになった。
『好き……なんて。
そんなの…そんな気持ち……迷惑です!』
『2度と…2度と言わないでください!
好きなんて言葉……僕にとっては害でしかない!!』
『金輪際……その言葉を僕の前で口にしないでッ!!』
震えていた、シエルの声。
一言一句思い出せる、拒否の言葉。
「……好きだって、言えなくなっちゃった…」
布団にはまだ、シエルの温もりが残っている。
わたしはそっとその部分を撫で、ポタリと涙を流した。
「……大好き、って言いたいよ。…シエル」
もう言えない。
わたしの心の奥深くに、仕舞われて行く言葉。
あったかいはずなのに、今は温度がない冷たい言葉。
「……シエル…」
わたしはぎゅっとドクから借りたハンカチを目に強く押し当てる。
そしてベッドにそのまま背中から倒れ込み、声を殺して泣いた。