心に届く歌
寮の管理人であるおじさんに挨拶をし、シエルの部屋へ向かう。
ノックをしても返事はなく、扉が開いていたため勝手に入らせてもらう。
「シエル……?入るわよ」
物が少ない、殺風景な部屋。
運ばれたばかりの机には、教科書が山積みになっていた。
ベッドの脇には点滴台が置かれていて、ベッドの上の布団は少し乱れていた。
シエルの姿は、部屋になかった。
「シエル……?」
どこか行ったのかな。
そう思い部屋を出ようと玄関の方へ踵を返すと。
「……エル様」
「シエル!」
玄関に近い扉が開き、シエルが出てくる。
扉の向こうは洗面所・トイレ・お風呂・洗濯機が置いてあるはず。
「どうされたんですか?
僕に用事なら内線電話で言ってくれても良かったのに」
「メイドから聞いたわ。
シエル、具合良くないの?」
シエルは無言でわたしの横を通り過ぎ、ベッドに腰かけた。
「大丈夫です。
あんまり夜ご飯を食べることは出来ませんでしたけど…。
今日はお風呂に入って早めに寝ます」
「シエル……」
「わざわざ僕なんかのためにありがとうございます。
何かありましたら内線電話でいつでも連絡してくださいね」
「シエル……あの!」
「エル様も早めにお部屋に戻った方が良いですよ。
もしかしたら僕からの風邪がうつっているかもしれませんし」
何故か早口で話したシエルは、「少し休みます」と布団に頭から潜った。
明らかにその態度は、わたしを拒否していた。
「……わかったわ。
シエルこそ、何かあったらわたしに連絡してね」
「…………」
「おやすみなさいシエル。お大事に」
わたしは部屋を出た。
パタリと静かに扉が閉まり、廊下へ1歩踏み出すと。
『ガチャン』
後ろから聞こえた、鍵を閉める音。
わたしは振り返り、シエルの扉を見つめた後、自分の部屋に戻った。
「……本当に今日…ハンカチにお世話になるなぁ」
グスン、と鼻を鳴らす。
今日はもう、早めに寝てしまおう。