心に届く歌
「……ごめん。
僕疎くて、クザン家聞いてもわからない……」
「気にするな。
むしろ俺にはお前みたいな奴の方が一緒にいて楽」
「え?」
「今まで仲良くしてきた奴は、俺の肩書きしか見ていなくて、俺の家を目当てに話しかけてくるような奴ばかりだった。
今クザン家の当主をしているのは俺の父親で、
クザン家が締めるグループ会社で働きたいって思っているような奴が、
俺に話しかけて一緒に騒いでいた奴だって気付いたんだ」
「何で気付いたの……?」
「3年生って進路の季節だろ。
大学に行く奴とか、親の会社継ぐ奴とか、就職する奴とか分かれるんだよ。
4月ぐらいに進路希望の紙書く時があって、
たまたまソイツらの見ちゃったんだよね。
ソイツらは全員、
クザン家のグループ会社に入社希望だった」
寂しそうに笑うアンスに、僕は何も言えなかった。
ずっと、中心街の人は輝いていると思っていた。
悩みなんてなさそうで、気楽で。
だけど……目の前の中心街出身のアンスは悩んでいる。
「全部失った気分だった。
ソイツらと過ごした日常も、
ソイツらと笑った日々も全部全部、否定された気分だった。
自然と離れるようになって、最初は辛かったけど、今は超楽しい。
だって俺が最初にフルネームで自己紹介した時、
シエルは俺の名前に何の反応も示さなかったから。
シエルが初めてだった。
俺を俺として見てくれる奴は」
ニッと白い歯を見せて笑うアンス。
途中から上体を起こし聞いていた僕は、膝の上にかけてある布団をぎゅっと握りしめた。