心に届く歌






「シエル……」




隣にそっとアンスがしゃがみ込む。




「わかんないっ……わからないよ、僕……」


「シエル」


「友達も親友も好きも愛情も、そんなのは幻想でしかなくて。
ただ本の中だけの作り話だと思っていたんだよ。

わからないよっ……何なのっ!?」


「何……か。
いざ言われるとわからねぇなぁ……。

何せ形がないから」


「形がないもの、どうして他の人は信じられるの?
どうやって形がないもの相手に伝えられるの…」


「口に出して伝えるしかねぇんじゃないのか?

心で思っていることを相手に伝えるとか、
エスパーじゃねぇと無理だから、
俺たち普通の力がない人間は、口で言って伝えるしかねぇんじゃないのか?」


「……迷惑って、言っちゃった」


「何を」


「エル様が昨日の夕方、僕に好きだって言ってくれた。
恋人になってほしい、旦那になってほしいって言われた。

だけど僕はそれに……迷惑って言っちゃった」


「…………」




やっちゃったな、とアンスの声が聞こえた気がした。




「迷惑だから。
害だから。
2度と、金輪際言わないでほしいって言っちゃった。

だけど部屋に戻った時、凄く辛くなって、
夜ご飯も少しだけ食べたら気持ち悪くなって全部吐いちゃって、
布団に入って眠ろうとしても全然眠れないまま朝になって。

食欲ない上まだ気持ち悪くて、朝ご飯食べないで学校に来て…。
今も吐き気治まらないし……。

罰なのかな……。
僕がエル様を拒否しちゃった罰なのかな」




僕はぎゅっとアンスの袖をつまんだ。

藁(わら)でも良い。

何かに縋っていたかった。





「やっぱり、傍にいない方が良いのかな。
自分の村に帰って、殴られている日々の方が良かったのかな」





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