心に届く歌
時は過ぎ、夜6時55分。
わたしはシンプルな紺色のドレスに着替え、ハンカチなど必要最低限のものをいれた鞄を片手に部屋で待機していた。
間もなく7時の鐘が鳴り、丁度ノックが聞こえ、お父様の執事と共に家を歩き、
外で待っていた黒塗りの自家用車に乗りこんだ。
「にしてもすごい雨だな……」
隣に座るお父様が真っ暗になった空を見上げて呟く。
夕方頃から降り出した雨は、容赦なく車の窓ガラスを打ち付ける。
傘がないとびしょ濡れの大雨だ。
「でもせっかくのティラン伯爵のお誘いでしょ?」
「あぁそうだ。
今後エルも付き合って行く相手だからな」
ティラン伯爵は仕事が出来るお金持ちだから。
ソレイユ王国には必要不可欠な存在なのは間違いない。
わたしは無言で微笑み、中心街にあるティラン伯爵のお屋敷への道中の景色を眺めていた。
真っ暗で、滝のような雨が降る景色を。