心に届く歌






「最初から諦めたりしないの。
職場の人間関係も大切なことなのよ」


「……そう、ですか」


「出来る限り頑張って話しかけて仲良くしてみなさい。
合わないのなら合わないでも良いから。

シエルにはわたしとアンスとドク以外の友達を作ってほしいわ」


「……頑張り、ます」




僕はぎこちなく返事をする。

ぎこちない理由は、『明日入る人と仲良く出来るかな』もあるけど。

本当の理由は別にある。




「でもシエル、紅茶淹れる才能はあるわよね。美味しいわよ」


「……お世辞でも嬉しいです」


「お世辞じゃないわ。
確かにまだまだだけど、絶対美味しくなるわ」


「……エル様のために、もっと上手く淹れることが出来、本当に美味しいと言ってくれるまで僕は頑張ります」


「頑張って」




エル様は笑い、残りを飲み干す。

そして本来は僕が飲み干すはずの失敗作まで飲んでくれた。



「うわ、渋ッ」


「ごめんなさい……もっと頑張ります」


「そこまで落ち込まないで。頑張ってね」


「はい」




本当、その底がない優しさが、心に痛い。





< 257 / 539 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop