心に届く歌
「最初から諦めたりしないの。
職場の人間関係も大切なことなのよ」
「……そう、ですか」
「出来る限り頑張って話しかけて仲良くしてみなさい。
合わないのなら合わないでも良いから。
シエルにはわたしとアンスとドク以外の友達を作ってほしいわ」
「……頑張り、ます」
僕はぎこちなく返事をする。
ぎこちない理由は、『明日入る人と仲良く出来るかな』もあるけど。
本当の理由は別にある。
「でもシエル、紅茶淹れる才能はあるわよね。美味しいわよ」
「……お世辞でも嬉しいです」
「お世辞じゃないわ。
確かにまだまだだけど、絶対美味しくなるわ」
「……エル様のために、もっと上手く淹れることが出来、本当に美味しいと言ってくれるまで僕は頑張ります」
「頑張って」
エル様は笑い、残りを飲み干す。
そして本来は僕が飲み干すはずの失敗作まで飲んでくれた。
「うわ、渋ッ」
「ごめんなさい……もっと頑張ります」
「そこまで落ち込まないで。頑張ってね」
「はい」
本当、その底がない優しさが、心に痛い。