心に届く歌
「シエルっ!!」
僕は鞄を持ったまま逃げ出した。
途中で担任に出会い「早く教室戻れ」と怒られたけど、ひたすら走った。
息が切れて辿り着いたのは、日の当たらない広い校庭の一部。
古びて苔(こけ)が生えた長椅子があり、崩れるように座った。
そしてままならない呼吸を整える。
「やっぱり」
やっぱり。
「僕、逃げられないんだ…あの場所から」
冷えて凍って壊れて狂ったあの家から。
今はどうしているか知らない両親の目から、声から。
「一生僕は、逃げられないんだ…………っ!」
終わりかもしれない。
幸せな生活は、幕を閉じる。