心に届く歌
☆アンスside☆
クラスメイトから突き付けられた、A4サイズの紙。
そこには、シエルの隠し撮りと、ノール村出身のことや、シエルが両親から虐待に合い、幼い頃から働いていたことが書かれていた。
隠し撮りだとわかった理由は、シエルがカメラ目線じゃない上、着ている服が執事服だから。
現在シエルがソレイユ王国100代目次期国王である、エル・ソレイユの第1執事見習いとして働いていることも書いてあった。
「シエルっ!!」
シエルは教室を急いで出て行く。
俺は追いかけようとして、紙を突き付けてきた男子に腕を掴まれた。
「クザン!行くんじゃねぇよ」
「は?何で」
「アイツと一緒にいると、クザン家の格が下がるぞ」
ドキッとする。
クザン家の俺は跡取り息子。
名を低くする行為など、許されない。
「あんな貧乏人、放っておけば良いんだ。
お前は跡取りだろ。
当主となるお前があんな貧乏人と仲良くしたら、
クザン家に仕える人やその家族の未来が真っ暗だぞ」
「……わかった」
「クザン」
ほっとしたような笑みを浮かべるソイツ。
俺は、ソイツの手を振り払った。
「確かに格は下げたくねぇよ?クザンの。
当主になるからには、クザンに仕える奴らの家族も見ねぇといけない。
だけど、アイツは、シエルは俺の親友だ。
親友を放ってクザン家に仕える奴も、ソイツらの家族も救うとか馬鹿げてる。
親友ひとり救えねぇで、何がクザン家当主だ」
俺はシエルを追いかけ走り出す。
貧血持ちのシエルだ。
そんな遠くまでいけないはず。
だけど不安がある。
シエルはお世辞でも良い環境で育って来ていない。
ずっと酷い環境で育ってきた。
自分を傷つけることで逃げ道を作り、心が壊れないよう支えてきた。
誰か、傍にいてやらねぇと。
アイツが壊れてしまう前に。