心に届く歌
「ねぇアンス……ちょうだい」
「何を」
「何でも良い……。
カッターでもナイフでも斧(おの)でも鋸(のこぎり)でも。
切りたい……っ」
俺はそっと引き寄せる。
今にも壊れてしまいそうな親友を。
「切りたいなんて言うな。
包帯巻き直して、今日は帰ろう」
「帰ってもひとり……」
「エルちゃんは」
「今日はプランタン国王様と月に1回の勉強会の日…。
会いたいのに……会えない………」
死んだ魚のような色を失った瞳から、ぼろぼろと涙が流れる。
「……好き…、なのかな」
「え?」
「多分……好き。
エル様が、僕は多分……好き」
「シエル……」
「でも、無理だよ。
僕なんか、隣になんていられない。
でも隣にいないと寂しいから、
頑張って勉強して、
エル様の執事になりたかった。
それなのに、もう、学校いられないよ……」
「シエル。俺がいるだろ」
「………アンス…」
「俺が全力でお前のこと守って、お前が執事になれるよう応援して、出来る限りサポートする。
クザン家跡取り息子を舐めるなよ」
「……僕なんかで良いの?
僕と一緒にいたって、良いことないよ」
「ばーか」
俺は人差し指でシエルの額を突っついた。
「親友だろ、俺ら。
お前が生きて傍にいるだけで良いよ」
「……アンス………っ」
「泣き虫だなぁ」
声を殺して泣き出したシエルの頭を撫でる。
家でエルちゃんが守るのなら。
学校では俺が守る。
親友として、クザン家当主として、恥じぬ生き方を俺はする。
「エルちゃんの次に俺を信用しろよ。親友」
最後の4文字に、シエルの涙腺は完全に崩壊し。
それから1時間ほど声が枯れるまで泣き続け、俺が渡した未開封のティッシュも全て使い切った。